重症痴呆の介護疲れ

重症痴呆の介護疲れは大きな問題

重症痴呆患者のフロアは三階です。玄関ロビーから鍵のかかるエレベーターで向かいました。中央が談話室兼食堂です。そこを一巡するように廊下があり、さらにその廊下を取り巻くように病室があります。建物の内部がドーナツ状になっているのです。病室の入り口には部屋の名前が書かれたプレートがついていて、「登別」「湯沢」など、部屋の名称はすべて温泉地名です。

 

 

施設全体がまるで温泉旅館のようなしつらえで、微笑ましく思えました。「お父さん、温泉に行こうよ」なんて誘えば、父はニコニコしながら出かけたがるに違いないと思われたので、私はお願いしてみようという気になっていました。患者さんの多くは談話室に集まっています。「皆さん、落ち着いているんですね」と、私は案内してくれた職員のかたに声をかけました。すると「お食事の時間ですから」と彼女は答えます。やはり食事はだれでも楽しみです。それで患者さんは静かに椅子に腰をかけて配膳を待っているのでしょう。この様子を見て、父をこちらの施設に託してみようという私の決意はいっそう固まりました。

 

 

その数日後、ショートステイの利用に消極的な姉をなんとか説得し、二人で父を連れて面談に行きました。強引に父を託そうとしている私に、姉はなかば押し切られるような感じでしたが、「お願いするのもいいかもしれないわねえ」と一応承諾しました夫曽私がこちらの施設を利用しようと決意した理由は、ハード面の充実以外にもう一つ決め手がありました。初めて見学に出向いたとき出会った見舞客のおばあさんの言葉が私の心を打ったのです。「私より年若い妹がなぜこんなにぼけてしまつたのでしょうか。ひとり暮らしの私と違って大勢の家族に囲まれてみんなから大事にされていたんですよ。こちらにお世話になってすぐ見舞ったときにはなにもかもわからなくなっていて、話をするどころではありませんでした。

 

家族で負担を分かち合って介護しないともちません

がつかりして帰ったのです。今日もだめかなあと思って訪ねてみたら、私のことをちゃんと覚えていてくれて話もできて、とてもうれしかつた。こちらの施設の皆さんは親切で、これなら家にいるより妹も幸せかもしれません。私も甥たちに気兼ねせずに妹を見舞えますから…」このおばあさんは、 一か月前に入所した妹さんのお見舞いに、わざわざ栃木から訪ねてきたといいます。そのときは二度目の面会だそうです。施設で規則正しい生活を取り組ませれば、このところの父の昼夜逆転生活が改善されるかもしれないと、私の期待はふくらみました。

 

 

 

妻以上に義姉のほうが介護の疲れはたまっているはずです。妻が主導で決めたショートステイの利用ですが、正直義姉も少し骨休みしたいと考えたのではないでしょうか。あるいは妹の疲れがピークにきていると察してのことなのでしょうか。そのへんの姉妹の微妙な心理のあやはわかりませんが、この三年間、たいした仲たがいもしないでやってきた二人には頭が下がります。