風邪をこじらせ気管支炎に

風邪をこじらせ気管支炎に

ただ、私の脳裏から「痴呆」の二文字が消えることはありませんでした。というのも、父はここ数か月前から、小銭をつかうことができなくなっていました。スーパーに買い物に出かけては、レジで千円札や一万円札しか差し出しません。ですから、いつの間にか父のポケットはバラ銭でいっぱいになってしまいます。

 

 

自販機の使い方もわからなくなっていました。お札の挿入口さえわからない様子です。そして、いつも吸っていたタバコの銘柄もわからないようで、とりどりの銘柄のタバコを買って帰ってきます。それでも私は、「年をとればしょうがないか…」とあまり深刻に受け止めることはありませんでした。

 

 

翌年の二月、風邪をこじらせた父は気管支炎を患い二週間あまり寝込みました。父の行動や動作に著しい変化が見られたのはそのあとです。もともときれい好きで、身だしなみに気をつかっていた父でしたが、毎朝行なっていた洗面も滞りがちです。晩酌の適量もわきまえられません。酒がまわって眠くなってしまうのか、入浴もいやがるようになりました。当然、着替えもしません。 一日中パジャマのままで過ごしていたり、しみのついた下着やズボンを幾日もはいていることもしばしばです。

 

悪臭が気になるほどでした。母や兄嫁は父に身だしなみを整えるようにと何度も促したはずです。しかし、父は家族のすすめを受け入れる能力がおそらくなくなっていたのでしよう。再び父は朝早く家を出て、 一日中歩きまわって、住み慣れた自宅に戻ったものの、今回は前回の徘徊のようにはその一日の行動をもはや反勿できません夫了この時点で、父の脳の異変は紛れもない事実だと、私は受け止めざるを得ませんでした。実の親子といえど、別々に暮らしている者にとって、痴呆症という病気はここまで進まないと理解ができないことを痛切に感じています。

 

 

 

…オヤジもかなり早い時期から買い物をするときは札しかつかえなくなっていたようです。買い物の際の簡単な計算がスムーズにできなくなるのは老化度をはかる恰好な物差しでしょう。